心理学用語で「後知恵バイアス」(Hindsight bias)という言葉があります。
これは、結果や知識を後から知ることで、無意識に以前の記憶を書き換えたり、知覚を修正したりしてしまう心理現象のことです。
例えば、会社で営業成績が思わしくない時、「ほら、やっぱり」とか、「きっとこうなるだろうと思っていた」など、後出しジャンケンのような叱責をする上司がいたりします。
これは後知恵バイアスによる無意識の言動なので、おそらく上司に悪意はありません。
しかし事前に予測できることと事後の確定事項を混同してしまい、予測できないことまで見通せていたかのように振る舞うので、部下は威圧的な態度をとられたと感じてしまうでしょう。
もしそんな理不尽な言葉をかけられたとしても、後知恵バイアスが働いているなと気づいた場合は、反面教師にしつつ、内容を真摯に受け止めないのが賢い対応かもしれません。
実際に、後知恵バイアスの割合を調べた研究があります。
サマリーをシェアします。
2009年、アメリカ ペンシルバニア大学ウォートンスクールのギャビン・カサー教授を筆頭著者とする、起業活動における後知恵バイアスを調査した研究結果が発表されました。
研究者達は、新規事業を立ち上げようとしている705人の起業家に対して、「ビジネスの成功の可能性をどのように見積もっていますか」と尋ねました。
しばらくして研究者が彼らに連絡を取ったとき、約40%が新規事業を止めていました。
この40%の人に対して、「新規事業を始める前に、自分の成功の可能性をどのように考えていましたか」と再び尋ねました。
結果、次のような事がわかりました。
1、事業が失敗する前の彼らに最初に成功の可能性を訪ねたとき、彼らは平均して77.3%と推測していました。
2、その後、事業から撤退した後では、彼らは当初のこの数字を平均して58.8%と回答しました。
3、つまり、事業に失敗した後で、最初の見積もりを下方修正したのです。
4、後知恵バイアスによる認知の歪みは、起業家個人にとって重要な意味を持ちます。
5、なぜならば、楽観的な傾向を修正し失敗の原因と向き合わなければ、将来再び起業する際、同じように成功の可能性を過大評価するリスクがあるからです。
出典:Journal of Business Venturing
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0883902608000311?via%3Dihub
研究のためとはいえ、随分と不躾な質問をしたものですね。
無意識の行動だからこそ「バイアス」と呼ぶように、誰にでも後知恵バイアスのかかった言動をとってしまう可能性があります。
後知恵バイアスの偏りが問題になるのは、失敗から学べなくなる場合です。
心理学者たちによれば、後知恵バイアスが起こる原因は「曖昧な記憶」と「過信」だそう。
そのため自分に対して、「これは後知恵バイアスではないだろうか」と自問自答するのは良い予防法と言えます。
また、学校のテストの結果が芳しくなかった時に、子どもが「今回は上手くいかないだろうとテスト前から解っていた」などと言う事がありますが、あれも後知恵バイアスが働いている可能性がありますね。
本人は、大人に責められないよう言いわけしているつもりがなく、おそらく無意識なのですから、頭ごなしに叱責するような態度は控えたいもの。
叱るのではなく、無意識の思い込みの癖について丁寧に説明し、課題を明らかにする事で、経験を次に活かして欲しいですね。
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