心理言語学(psycholinguistics)という分野があって、言語を人の心理的側面との関係で研究する学問だそう。
確かに、気分を他のもののたとえで言い表す比喩的表現ってありますね。
例えば日本語で悲しい体験について語る際「どん底」「肩を落とす」「気落ちした」など下向きの表現を用います。
これに対して楽しい体験について語る時には「頂点に立つ」「天にも昇る心地」「右肩上がり」など上向きの表現を使います。
このような比喩表現に沿った単純作業が、人の心にも影響するのだそう。
研究のサマリーをシェアします。
2010年、オランダ マックス・プランク研究所のダニエル・カササント博士とエラスムス大学のカティンカ・ダイクストラ博士による、言語の比喩表現に基づく単純動作が、心に及ぼす影響を調べた研究結果が発表されました。
研究者達は幾つかのビー玉と、それらを上に登らせたり、下に降ろしたりするための箱を準備しました。
そして実験の参加者に、過去の嫌な経験や楽しい経験について話しながら、同時にビー玉を上の箱や下の箱に移動させるよう指示しました。
また別の実験では、参加者に「今日はどんなことが起きましたか?」のような中立的な質問に答えてもらいながら、同時にビー玉を上の箱や下の箱へ移動させるよう指示しました。
結果、次のようなことがわかりました。
1、ビー玉を上に向かって移動させると、参加者はポジティブな記憶をより速く思いだすことができました。
2、ビー玉を下に向かって移動させている時、参加者はネガティブな記憶をより速く想起していました。
3、ビー玉を上や下に動かす動作の方向と、人が想起する感情との間には因果関係があることが示されました。
4、私達が日常的に感じている「善きことは上の方にある」という空間的な概念は、言葉の比喩表現と対応しています。
5、そのため、上を向くとポジティブな比喩表現が想起され、下を向くとネガティブな比喩表現が想起されるのです。
出典:Cognition
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0010027709002820?via%3Dihub
嘘でしょ?と思わず言いたくなるような研究結果です。
ビー玉を上や下へ動かすという、一見無意味に思える単純作業が、思い出す記憶の良し悪しに関連しているとは‥。
これはそもそも、私達の話す言葉に、高いところがポジティブ、低いところがネガティブ、という比喩表現があるからなのだそう。
理屈は解らなくもないですが、急に言われたらびっくりです。
この研究によれば、上を向いて考えるとポジティブな記憶を思い出しやすいそうですが、要は上向きな考えを活性化させる動作であれば、何でも良いということになります。
○高所に登る
○両手を上にあげてみる
○空を眺める
○高所の動画や写真を見る
なぜ、これらに効果がありそうかと言えば、「上向きがポジティブ」との空間的な比喩表現が、私たちの感情処理方法に組み込まれているから。
もしかして子ども達が積み木遊びやジャングルジム遊びに熱中するのは、こんな心の仕組みと関係があるのかもしれません。
それから、これは子育てに限らず大人社会でもそうなのですが、誰かを上から見下ろしながら叱責するのは、ネガティブな記憶が想起されやすいと言えそうですね。
過去の失敗をどんどん思い出し、グチグチと蒸し返していては歯止めが効かなくなりそうですので気をつけなくては。
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