思えばこの100年ほどの医学の発達により、人類の感染症リスクが減って平均寿命は劇的に伸びたと言えます。
それと比べると、精神障害の原因は依然として謎に包まれていて、精神障害の有病率はほとんど減っていないそう。
自然人類学者による、不安障害、うつ病性障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD:Post Traumatic Stress Disorder)などの精神「障害」は、完全に「障害」とは言えないとの研究があります。
むしろ、それらは逆境に対する自然な反応の可能性があるとのこと。
サマリーをシェアします。
2019年、アメリカ ワシントン州立大学のクリステン・L・サイム博士とエドワード・H・ヘイゲン教授による、メンタルヘルスの障害は生物学的な適応反応であるとの研究結果が発表されました。
彼らは生物文化的枠組みを用いて世界の様々な地域における精神分裂病の特徴を調べた研究に注目しました。
例えば統合失調症の有病率は、ミクロネシア東部にあるマーシャル諸島の0.4%から、西部の島国であるパラオの1.7%までで、4倍もの差がありました。
また、パラオでは有病率が2:1で男性に偏っており、他の地域で見られるよりもはるかに多い割合でした。
パラオの結婚率を調べると、女性が48%であるのに対して、男性は10%でした。
パラオの若い女性は一般的に、家庭内の責任を果たし、育児を手伝い、子供を産むことで、家庭や家系の中で安定した地位を保っています。
その一方で男性は、収入を得て、結婚し、子供を産み、社会的、政治的、経済的な関係を築くまでは、意味のあるアイデンティティを持つことができません。
パラオでは男性と女性とでは慣習的な義務に違いがあり、このような文化が女性を統合失調症の発症や悪化から守っている可能性があります。
このような複数の研究をもとに、次のような提言を行いました。
1、痛みは病気ではなく、問題があることを教えてくれる機能です。心の痛みの原因は、人の心の中ではなく、私たちが住む社会にあると言えます。
2、不安障害、うつ病性障害、PTSDは、暴力や恐怖などが原因とされることがほとんどですが、むしろ社会文化的な現象のようです。
3、つまり、解決策はその人の脳の機能障害を治すことではなく、社会の機能障害を直すことなのです。
4、同様に、注意欠如・多動性障害(ADHD:Attention-deficit/hyperactivity disorder)のような「障害」は、子どもが学校で何時間も黙って座っているようには設計されていないという事実から生じているのかもしれません。
5、彼らを学校に連れて行くことが社会にとって好ましいことであるという事実は、子どもの責任ではありません。
6、問題なのは、無秩序な世界に対する彼らの通常の反応が完全に正気であるにもかかわらず、「障害」と診断されることで不要な損害が生じているということです。
出典:American Journal of Physical Anthropology
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ajpa.23965
この説を提唱しているヘイゲン教授は生物人類学の研究者で、非感染症を進化論的に捉え、メンタルヘルスに焦点を当てているそう。
精神疾患は文化的な価値観や役割の課題を反映しているに過ぎないという見方は、今現在、それほど支持されているようには見えません。
治すべきなのは患者の心ではなく、社会のあり方であるという主張は、随分とスケールの大きな話ですが、もしそんな主張が受け入れられたら、この世界が様変わりしそうですね。
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