心理学の用語で「カメレオン効果」(chameleon effect)と呼ばれるものがあります。
これは、相手に良い印象を持ってもらうため、無意識に相手の表情、姿勢、仕草、話し方などを模倣してしまう心理現象のことで、模倣された人は、模倣した人に対して好感を持つことがわかっています。
科学的な研究によれば、誰かのあくびにつられて自分もあくびをしてしまうのも、酸欠のためではなくて、カメレオン効果なのだそう。
退屈な会議中などは本当に困ってしまいますが、このカメレオン効果によって、人間の社会は順調に進化してきたと言われています。
人間関係において「共感」はとても重要で、人類は無意識に相手の行動を模倣する現象によって互いに共感し合い、種の保存を図ってきたとのこと。
私の経験でも、CAの訓練生時代、仲の良い大阪出身の同期の関西弁のイントネーションがうつってしまい、アナウンス訓練で教官にメッタメタにしごかれた過去があります。
(そんな怖い教官と親密になって、教官を模倣するなんて無理でしたよ…。)
とにかく、自分では真似しようと思っていないのに、無意識のうちに模倣しているのですから不思議です。
なんと、スマホが社会的に広く普及した要因も「カメレオン効果」であるとする心理学の研究があります。
サマリーをシェアします。
2021年、イタリア ピサ大学のヴェロニカ・マグリエリ氏を筆頭著者とする、スマホ画面を見るだけで、観察者に模倣反応が起こるかどうかを調べた研究結果が発表されました。
研究者達は、職場、レストラン、映画館、ジム、公園などで観察を行いました。
合計184人(女性88人、男性96人)の被験者が参加した、820件のイベントを分析し、条件に合致するデータを抽出しました。
スマホを手に取って操作し、5秒以上画面を見つめた人を「誘引者」と設定し、周囲の人に模倣反応が起こるかどうかを調べました。
結果、次のようなことがわかりました。
1、誘引者がスマホを操作するだけでは、周囲の人に模倣反応は起こりませんでした。
2、誘引者がスマホを操作し、その画面を5秒以上見ているとき、近くにいる人の50%が、30秒以内に携帯電話を取り出しました。
3、誘引者の性別や年齢、近くにいる人との関係性や親密度が違っても、周囲の人には同様の模倣反応が起こりました。
4、彼らは意識せずに自動的にスマホを取り出していました。
5、私たちは、他の人に溶け込み、より好かれるために、無意識に模倣を行います。
6、これもまた、人間がお互いに真似をしたがるカメレオン効果の現れと言えます。
出典:Journal of Ethology
https://link.springer.com/article/10.1007/s10164-021-00701-6
確かに通勤中に周りを見渡すと、私を含め居合わせた人全員がスマホ画面に見入っている時があります。
たとえ同じ電車に乗り合わせたといっても、私たちは見ず知らずの他人同士です。
しかし同じ振る舞いをしていることで、「私は不審者ではありません。なんら迷惑をかけません。」という無言のメッセージを無意識に伝え合っているのかも。
スマホは皆と同じ振る舞いをするための必須アイテムという説も、あながち嘘とは思えなくなってきます。
そうなると、もう子どもに「スマホばっかり見てないで宿題しなさい」なんて言えなくなりますね。
だって、カメレオン効果で周囲の大人達を模倣しているのですから。
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