「ポジティブ心理学」(positive psychology)と呼ばれる、個人や組織の強みやあるべき姿に注目し、その理想的な状態の構成要素を実証しようとする、心理学の一領域があります。
幸福感や喜びなどのポジティブな感情を扱いますが、もし困難に遭遇した際、どこに意識を向けると幸福度が最も高くなるのでしょう。
研究のサマリーをシェアします。
2021年、イギリス サリー大学のアメリア・デニス氏を筆頭著者とする、過去、現在、未来のそれぞれ異なる時間軸へ意識を向けることが、ロックダウン中の幸福感に与える影響を調べた研究結果が発表されました。
研究には261人の女性が参加しました。
参加者は、性格特性、愛着度のテストを受け、年齢、性別、雇用形態、交際状況などのアンケートに回答した後、ランダムに三つのグループに振り分けられました。
参加者は三つのグループごとに「メンタルヘルスを改善するため、次の方法に取り組んでください」と指示されました。
〔過去グループ〕以前の出来事を懐かしむ
〔現在グループ〕今あるものに感謝する
〔未来グループ〕最高の自分をイメージする
その後全員の、幸福度と感情コントロール度の測定を行いました。
結果、次のことが分かりました。
1、〔未来グループ〕の方法が最も効果的で、希望を育むため、人生のポジティブな面が楽しみになり、現在の辛い状況が気にならなくなりました。
2、〔現在グループ〕の方法は2番目目に効果的で、失っていないものに気づき、社会的なつながりを認識する効果が高まりました。
3、〔過去グループ〕の方法にもメンタルヘルスを改善する効果が認められましたが、その効果は他の2つと比べて小さくなりました。
4、人生の困難な時期を経験している人々にとっては、過去を回想するよりも、現在や未来に目を向け、現在の生活の中でポジティブなことに感謝する方が、心理的に有益でした。
5、特に、可能な限り最高の未来の自分を想像できた人は、とても良い気分になり、過去を思い出していた人と比較して、よりポジティブな感情が湧きました。
6、以上のことから、ロックダウン時に現在または未来に焦点を当てることは、過去に焦点を当てることと比較して、幸福度を高める効果が高いことが示されました。
出典:Journal of Positive Psychology
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/17439760.2020.1858335
三つのメンタルヘルス改善方法は、ロックダウンという人生の困難な時期を経験している人々にとってどれも効果がありましたが、その効果には差が認められたそう。
毎日不安で不自由で、心理的ストレスが高まるような状況においては、失ったものを悔やんだり、過去の判断を責めたりしていては、精神的にも感情的にもダメージが深まってしまうでしょう。
こんな時こそ、今あるものの有難さや未来の明るいイメージに意識を向けると、メンタルヘルスの改善が見込まれるとのこと。
一見、ポジティブが万能で最強のように思えますが、それは時と場合によりますね。
例えばCAの保安業務のような人命に関わる業務では、エラーは絶対絶対絶対あってはならないことですので、決して楽観視などできません。
何度も何度も入念にチェックして、それでもそんな自分を過信せず、むしろネガティブに疑ってかかるくらいが丁度です。
社会の中で、私達は日々良い波や荒い波に揉まれながら生きていますが、思考は現実を離れて過去へも未来へも飛ばすことができます。
その自在さが裏目に出ると、既に終わった過去をいつまでも悔やんでしまったり、以前と同じ失敗を繰り返したり、不測の事態に対処できなくなったりしてしまいます。
自分が今、精神的に負担がかかって心身ともに疲れ切っているのか。
それとも心身共に健康で、新たな挑戦の準備が整っているのか。
そんな自分の心の傾きを見極めて、ポジティブな感覚と冷静な判断の両方を上手に使いこなして行きたいものです。
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