社会心理学の用語で「傍観者効果」(bystander effect)というものがあります。
何か事件が起きた際、自分以外に傍観者がいれば率先して行動を起こさないという、集団心理のことです。
1960年代に行われた社会心理学の研究で、人が多ければ多いほどこの効果が高まることが分かっています。
「別に自分が助けなくても他の誰かがやってくれるはず。」
「皆が見て見ぬふりをしているんだから、別にいいよね。」
「もし自分が出しゃばって、面倒なことになったら恥ずかしい。」
などと考えて、困っている人を見ても助けようとしなくなってしまうのです。
例えば、子どものいじめ、連れ去り、虐待などの悲しいニュースが報じられる際、その場に居合わせたけれど何もしなかった人がいて、傍観者効果を指摘されることがあります。
一般的に「都会の人は冷たい」と言われますが、性格の問題ではなく傍観者効果が発揮されやすい環境が問題なのかもしれません。
心理学では、そんな人間の心理を改造することはできないので、傍観者効果が発動してしまわないような、社会システムを構築することが重要と考えられてきました。
ところが、最近の社会心理学の研究は、これまでとは違う可能性を示唆しています。
サマリーをシェアします。
2020年、イギリス ランカスター大学のリチャード・フィルポット博士を筆頭著者とする、公共の場所での紛争発生時に一般市民が介入する可能性について調べた国際研究の結果が発表されました。
研究者達は、公共の場に設置された防犯カメラに注目しました。
オランダのアムステルダム、南アフリカのケープタウン、イギリスのレスターの3都市の路上で発生した、合わせて219件の喧嘩について、防犯カメラのビデオデータを調べました。
結果、次のようなことが分かりました。
1、10回のうち9回は、一人または複数の傍観者が喧嘩に介入していました。
2、ある人は、加害者を落ち着かせようとしていました。
3、別の人は、加害者を力ずくで止めたり、引き離したりしていました。
4、また、被害者を慰める人もいました。
5、傍観者が多ければ多いほど、被害者が助けられる可能性が高くなっていました。
6、周りに人が多いと、傍観者効果により、個人的に助けようとする可能性は低くなるかもしれませんが、その一方で、助けてくれる勇敢な人との遭遇率が高くなるとも言えます。
7,私達は、傍観者ばかりの社会に生きているように思うかもしれませんが、実際の人間社会はもっと複雑なものだと考えられます。
出典:American Psychologist
これまでの学説を覆すような研究結果です。
人目が多ければ多いほど、助けてくれる人と出会う確率も高くなるというのは、言われてみればその通りですね。
親として子どもに「頼れるのは自分だけ。自分の身は自分で守るしかない。」と教える時って、そんな冷たい世の中が嫌になるものです。
「知らない人や不審者に気をつけて」
「変なおじさんが声をかけてきたら逃げて」
と親が教えても、子どもには不審者かどうかの判断がつかない場合もありえます。
もし子どもが困っている時、誰かがが見守り助けてくれる社会は心強いですね。
時代が変わり、社会のあり方が変われば、これまでの価値観も変わってゆくのかもしれません。
良い方向への変化なら大歓迎です。
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