心理学で「レシプロシティの法則」(reciprocity)とか、「返報性の原理」と呼ばれるものがあります。
人間関係において「相手に何かを渡したらお返しがあると期待し、逆に相手から何かを受け取ったらお返しをしなければならない」と意識する共通認識のことです。
これは、会社のチームビルディングやマーケティングでも活用されています。
例えば、人は誰かに親切にしてもらうと、その人に何かお礼をしたくなるもの。
その一方で、何かを与えてもらってもお返しをしない人は、たとえ実力があっても他人の協力を得られにくくなってしまいます。
また、初月無料のアプリなどで、1ヵ月間タダでサービスを利用させてもらうと、2か月目以降、気分良く課金する気になったりしますね。
自分から先に親切にすることで、結果的にポジティブな連鎖が大きくなり、信頼できる豊かな関係になれるのですから素敵なことです。
では、反対に無礼なことをされた場合は…。
同じ程度の無礼な目に合わせたくなるのでしょうか?
研究のサマリーをシェアします。
2019年、アメリカ シカゴ大学のボアズ・キーザー教授を筆頭著者とする、親切な行為と侮蔑的な行為で、レシプロシティの法則がどのように違って働くかを調べた研究結果が発表されました。
研究では、40人の参加者に、独裁者ゲームと呼ばれる実験に参加してもらいました。
独裁者ゲームとは、財産を複数で分け合いますが、その際、ある参加者(独裁者)が全員に対してどの程度配分するかを一人で決めるというものです。
独裁者役と受取人役の両方で、人の寛大さにどのような影響があるのかを検証しました。
結果、次のようなことが分かりました。
1、寛大な扱いを受けたと認識した場合、その人も同じように寛大になりました。
2、しかし、軽く扱われたと感じた場合、その人は苛立ちをエスカレートさせ、不釣り合いに利己的な反応をしていました。
3、もしあなたが誰かのことを軽視した場合、相手は非常に攻撃的な反応を示し、それが暴力的な報復にまで発展する可能性があります。
4、軽視されたと感じた側は、軽視した側に悪気がないことを想像できず、そのような認識の違いから、ますます強い反応を示すようになると考えられます。
出典:Psychological Science
https://journals.sagepub.com/doi/10.1111/j.1467-9280.2008.02223.x
人は、親切にされた時は、同程度の親切で返そうとするのに、侮辱されたら数倍の仕返しをして、相手を罰したくなるというのですから恐ろしい。
研究で受取人役になった人は、与えられた金額よりも、独裁者役になった人の意図を重視する傾向がありました。
独裁者役が親切心を持っているか?それとも意地悪をしているか?その感じ方は、お金を受け取った人次第です。
たとえ公平な金額を受け取っていたとしても、本人が感情的になってしまったら、合理的な判断が出来なくなる可能性があります。
これを自動車の運転に当てはめると?
見ず知らずの人が車線に割り込んできた時、「初心者だな」と思うか、「舐められた!」と思うかで、感情が変化します。
ネガティブな受け止め方をした人は仕返しをしたくなりますので、ちょっとした小競り合いが大きな暴力事件にまで発展する可能性も…。
さらに、これを親子関係に当てはめると?
子どもが学校の宿題をやらなかったとして、「体調が悪かったからな」と思うか、「親を馬鹿にしている!」と思うかで、親の気分が変わります。
子どもの方だって、「親は自分の為を思って叱っている」と感じるか、「親は自分をストレスのはけ口にしていじめている」と感じるかで、信頼関係が真逆になってしまいます。
そう考えると、朝晩の気持ちの良い挨拶、ちょっとした会話、そういうささやかだけどポジティブなアクションを普段からこまめに返し合い、互いの気持ちを普段から伝え合っておくって、とても大事なことだったのですね。
私たちの脳には、よく分からないネガティブなイベントに過剰反応してしまう性質があるのです。
イラッとした時こそ、人間の脳にこんな偏りがあったことを思い出して、冷静になりたいものです。
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