ナラティブ・セラピー(物語療法)をご存知ですか?
ナラティブセラピーとは、社会構成主義やポストモダンの影響を受け発展した心理療法です。「ナラティブ」とは「語り」という意味です。
クライエントの語るこれまでの人生の物語を、クライエント自身が再構築して新たな物語にすることで、問題の解決を目指していく治療法です。
そこで、セラピストとの対話を通じ、クライエント自らが語ることで、クライエントを支配している物語を新しい肯定的な物語へと編集し直していくのです。
この治療法は、PTSDの治療に特に有効とされていますが、症状の除去から人生観の転換に至るまで、幅広い改善が期待されています。
出典:心理学用語集サイコタム
https://psychoterm.jp/clinical/therapy/narrative
私がナラティブセラピーと初めて出会ったのは、2018年12月の「いじめ暴力に向き合う学校作りのために」という講演会です。
講師は駒沢女子大学の心理学類講師で臨床心理士の綾城初穂先生です。
学校のいじめなど対人関係の問題解決の方法を研究されていて、初心者にもわかりやすくナラティブセラピーについて解説してくださいました。
その内容をシェアします。
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従来アメリカでは、学校で揉め事や暴力事件が起きると、「問題は、その生徒、その教師、その親にある」のように、誰かの性格、人格のせいにすることが多かったのです。
ルールを決めて、違反者が出たら、厳しい罰を与えたり退学させたりするのです。
しかしアメリカ心理学会による全米調査では、そうやって不良生徒がどんどん退学になって居なくなるのに、学校の雰囲気は良くならず、地域は荒れ、生徒の成績も上がりませんでした。
そこから新しい考え方が生まれました。
ナラティブセラピーでは、「人が問題なのではない。問題が問題なのである」と考えます。
暴力事件の原因は不良生徒ではなく、「暴力」という現象にあるということです。
×「暴力的な不良生徒を罰しよう」とするのではなくて、
○「不良生徒の心の中の暴力的要素が彼を傷つけている」と考えます。
×「彼は加害的」ではなくて、
○「彼は加害的要素に困らされている」と考えます。
カウンセリングでは不良生徒本人を叱ったり、責めたりしないで、気持ちを聞きます。
子どもはどうせ通じないと思っていると不貞腐れますが、責められていないとわかると気持ちを話し出します。
出てきた話をどんどん深堀りしていくと、過去のエピソードが出てきます。
人は多くのストーリーから自分の価値観を作っていますが、問題状況では、悪いストーリーが優先し、別の側面が見えなくなっています。
悪いストーリーを掘り下げて、その中に眠っているまだ見つかっていない良いストーリーを探して、相対的に良くしていきます。
こうして、自分にだって良い要素があると不良生徒が自分で気がつくことで、行動が変わってゆきます。
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スクールカウンセリングの話なのですが、子育てにも応用できると思いました。
親が子どもを叱らなくてはいけないときもあります。
そのときに、本人を責めるような叱り方をしても、罰を与えて行動を変えようとしても、効果が低いです。
本人が根本の原因を理解して、自分自身の望ましくない思い込みをより良いものに書き換えられたら素晴らしいです。
それには、親自身が「本当にこの子のせいではない」と考え続けられるか?
そして、辛抱強く話が聞けるか?が試されそうですが。
綾城先生によれば、日本の学校で揉め事があったケースでも、解決しようとせず、互いの気持ちを丁寧に聞いて解決に導いたケースがあるそうです。
まだ研究途上ではありますが、誰かを問題にしないことによる、大きな可能性があるとのことでした。
子ども達を規律でしばりつけるのではなく、対立の解決方法や、平和な関係性、他者との関わり方を学べるようにすることが必要で、学校はそのための絶好の場所だとおっしゃっておられたのが印象に残りました。
綾城初穂先生、ありがとうございました!
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