「不安障害」(Anxiety disorder)とは、過剰な不安や恐怖により日常生活を送ることが困難になるほどの行動上の障害が起こる精神疾患です。
不安障害は、およそ5人に1人の割合で生活に影響を及ぼしているとされ、世界的には数百万人の患者がいるとも言われています。
発症の仕組みについては環境要因だけでなく、遺伝要因も関係していることがわかっていますが、まだ完全に解明されたわけではありません。
ですが人間に似た脳を持つとされるアカゲザルを対象とした研究によって、不安障害が親から子どもへの遺伝によって引き継がれる仕組みについてのヒントが得られたそう。
研究のサマリーをシェアします。
2018年、アメリカ カリフォルニア大学デービス校のアンドリュー・S・フォックス博士を筆頭著者とする、アカゲザルの子どもが親から不安障害を受け継ぐ原因として、脳の構造でなく脳の機能が重要な役割を果たしていることを明らかにした研究結果が発表されました。
研究者達は、ヒトでいうと思春期に当たる月齢のアカゲザルの多世代家系(雌170頭、雌208頭)を対象に研究を行いました。
ヒトの研究で日常的に用いられているのと同じ種類の神経画像を利用して、さまざまな程度の不安気質を持つ若いアカゲザルの脳スキャンを実施し、遺伝データとの関連を調べました。
全ての実験手順は研究機関内に設置された動物実験委員会の審査・承認を受け、そのガイドラインに従いました。
結果、次のようなことが分かりました。
1、アカゲザルの場合、親から子どもへ不安気質が遺伝する割合は30%と推定されました。
2、極度の不安気質を親から受け継いでいるアカゲザルの脳の扁桃体に、不安に関連する神経結合回路が発見され、この神経細胞の連続体は遺伝性のものでした。
3、今回の研究でアカゲザルの脳を測定した方法は、ヒトの子どもにおける不安障害の研究でこの回路を測定する際の方法と類似しています。
4、したがってこの研究は人間にもかなり当てはめて考えることができると言えます。
5、子どもが親から不安障害を受け継ぐ仕組みは、遺伝性の過剰な神経結合回路によるものと考えられますが、この回路が不安障害の原因の全てではありません。
6、不安障害は、遺伝的要因と環境的要因の組み合わせによって生じるものだからです。
7、よって今回の発見は、遺伝的に不安障害のリスクを抱えた子どもたちの治療や早期介入の手がかりとなるでしょう。
出典:Journal of Neuroscience
人類の進化上、不安感や恐怖反応というものは、個人が危険を認識して回避するのに役立ちますので利点をもたらすと言えます。
おそらく私たちの祖先は生存確率を高めるために、親から子どもへの遺伝情報として不安の神経回路を受け継いできたのでしょう。
ですが、現代社会では不安の神経回路が過剰に活動することは問題で、不安障害や鬱病を引き起こしてしまう可能性があります。
不安に関連した脳機能を生み出す分子の変化について、どこを見ればよいかがわかったわけですから、今後の治療や予防に応用できそうですね。
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