認知心理学用語で「アンカリング効果」(Anchoring Effect)と呼ばれるものがあります。
これは、最初に与えられた数字や情報に過剰に影響され、その後の判断や行動を歪めてしまうという現象を表す心理学用語です。
アンカーとは日本語で「錨」のことで、船が錨を下ろしたように身動きの取りにくい状態になることを表しています。
具体的には、後になってより多くの情報が得られた場合であっても、最終判断が最初の数字や情報に近くなります。
研究で、最初に金額を高く設定すると、アンカリング効果が働いて最終的な交渉額も高くなる事を調べたものがあります。
サマリーをシェアします。
2011年、アメリカ アイダホ大学のトッド・J・ソースタインソンによる、アンカリング効果が給与交渉に与える影響を調べた研究結果が発表されました。
研究には200人以上の大学生が参加しました。
管理アシスタント職の求人に応募すると言う設定で、模擬採用面接を行いました。
1つのグループは、前任者の年棒が29.000米ドル(約3,174,600円)である事を伝えてから、給与額の交渉を始めました。
もう一つのグループは、給与交渉前に100.000米ドル(約10,947,000円)という非常識に高額な希望給与額の冗談を言ってから、給与額の交渉をするよう指示しました。
結果、次のようなことがわかりました。
1、最初に前任者の給与額を知っていたグループの年棒額のオファーは、平均32.463米ドル(約3,553,700円)でした。
2、それに対して、最初に非常識に高額な給与額の冗談を言ったグループの年棒額のオファーは、平均35.385米ドル(約3,873,600円)でした。
3、つまり、高額な給与の冗談によりアンカリング効果が起きた場合、年棒で3.000米ドル(約320,000円)相当の値打ちがありました。
4、給与に男女間の性差がある場合、女性がアンカリング効果を上手に活用することで、性別の違いによる賃金格差の解消につながる可能性があります。
出典:Journal of Applied SocialPsychology
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1559-1816.2011.00779.x
アンカリング効果は、日常で無意識に使っていることが多く、マーケティングにも活用されています。
私自身の経験でも、定価1万円が期間限定キャンペーンで5,000円になっているときと、同じ商品が初めから5,000円で売られているときとでは、前者の方がアンカリング効果でお買い得に思えて買ってしまったことがあります。
認知心理学ではこのような、人間なら誰もが持っている思考の偏りがいくつも観察されていて、それらは「認知バイアス」(Cognitive bias)と呼ばれています。
これらは情報が不足している中、人類が物事を決断しなければならない時のサポートになってきたと考えられていますが、現代社会においては、人が様々な場面で事実を歪めて受け取ってしまい、判断ミスをする原因にもなっています。
そのため認知バイアスには、対処法が考えられていて、アンカリング効果も例外ではありません。
アンカリング効果を回避する方法の1つは、それが感情的なものであれ、意思決定であれ、アンカーの状態から離れるようにすることです。
そのためには、他の比較対象について考えることが必要です。
もしショッピングをするならば、お得情報に飛びつかず、他店の値段も調査して情報を増やすのです。
交渉の場では、アンカリング効果を避けるために、他の選択肢がないかを考えることになります。
交渉理論家はこれを「BATNA」(バトナ)と呼んでいます。
これは「Best Alternative To a Negotiated Agreement」の略で、交渉相手から提示された条件以外で最も望ましい代替案という意味になります。
たとえば、子どもからお小遣いを値上げして欲しいと言われたら、子どもの言い分ではなく、「誰の家ではどういう条件でどれほどの額」という情報を得て、その金額から交渉をスタートさせるということ。
様々な認知バイアスの仕組みと対処法を理解することで、子育てや対人関係を円滑にしていきたいものです。
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