コロナ禍により社会的孤立の状態が続いたことは、私たちのメンタルヘルスにも大きな影響を及ぼしていると言われます。
でも、それを実験で測定するのは難しいもの。
だって、人間を使った実験で社会的孤立を誘発するなんて、倫理的に問題ですから。
とはいえ、研究室のマウスを仲間から引き離してケージに閉じ込めたところで、どれほど孤独なのかという主観的な感想を、マウスに直接聞くなんて無理。
そこで研究者たちは、10時間という期間を定めた社会的孤立の実験を行いました。
サマリーをシェアします。
2020年、アメリカ マサチューセッツ工科大学のリヴィア・トモヴァ博士を筆頭著者とする、社会的に孤立した状態が続くと、人はどのような影響を受けるのかを調べた研究結果が発表されました。
研究には、健康な40人の大学生(女性27名、男性13名、平均年齢26歳、BMI平均22.8)が参加しました。
参加者は、少なくとも24時間の間隔を空けて次の3つの実験に参加しました。
A : 9:00〜19:00まで強制的な絶食を指示され、水以外の一切の飲食物を摂取せずに過ごしました。
B:9:00〜19:00まで自由に過ごすよう指示されました。
C:9:00〜19:00まで完全な社会的隔離を指示され、スマホもインターネットも無い個室で、読書、パズル、塗り絵、一人だけでの飲食などをして過ごしました。
それぞれ指示通りに過ごした後、MRI検査を行い、魅力的な花、ケーキやピザなどの食べ物、仲良く談笑する人々、などの写真を複数見てもらい、誘発される脳の神経反応を測定しました。
また、実験中どのような気分で過ごしたかを回答してもらいました。
結果、次のようなことがわかりました。
1、強制的絶食により、食物への渇望、空腹感、不快感、断食への嫌悪感が増加し、幸福感が減少しました。
2、社会的隔離により、社会的繋がりへの渇望、孤独感、不快感、孤立への嫌悪感が大幅に増加し、幸福感が減少しました。
3、MRI検査では、強制的絶食の後に食べ物の写真を見たときも、社会的隔離の後に人々が交流する写真を見たときも、同様に、中脳の黒質と呼ばれる神経核から「渇望信号」が出ていました。
4、脳は、空腹時に食べ物を欲しがるのと同じように、孤立時に人との関わりを欲しがることがわかりました。
5、日常的に豊かな社会生活を送っている人ほど、孤独による脳の反応が大きくなりました。
出典:Nature Neuroscience
孤立を余儀なくされている人は、空腹の人が食べ物を欲するのと同じように、社会的な交流を求めるとのこと。
どうりで、ソーシャルディスタンスで人と会うのを我慢すればするほど、無性に旅行や外出イベントのことばかり考えてしまうわけです。
自分の人生には十分な社会的な繋がりがあって本当に満たされていると考えている人ほど、社会的な孤立がストレスになるということですから困ります。
親として、子どもの食事の支度には熱心でしたが、子どもの孤立を癒すケアについては、さほど考えていなかったなと反省しました。
食べ物とちがって、寂しさは目に見えないのでつい後回しにしてしまいがちです。
しかし脳にとって、人との繋がりが無くなることは、食べ物が無くなることと同じくらい幸福感が減少するそうですから、せめて親子のコミュニケーションだけでも大切にしたいですね。
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